運用の手引き

学科試験だけで自動車運転免許証を取得することはできません。
しかしベルギーでは無線免許を手にするまで、どのようにしてQSOすれば良いのかを学ぶ方法はありませんでした。つまり学科試験だけでアマチュア無線の免許を取得し、交信できるようになるのです。ですから初心者のオペレーションは、お世辞にも聞いていられるものではありませんでした。再び自動車運転免許証に例えるなら、学科試験だけを受けて免許証を取得した大勢の人が、運転の経験も無しに公道を走っているのわけですから、それを想像してみてください。ベルギーのアマチュア無線は、今まさにこのような状態にあります。
私(筆者)とて、ハムになって初めの数年間は多くの失敗をしたものです(今でも失敗は無くなりませんが、以前よりは随分と減りました)。私は日の浅いオペレータから熟年のハムまでが、手早く「プロの運用」が行っていただくのに参考になればという願いからこの文章を記しました。私が起した失敗の多くは、当時の熟年オペレータの多くによる「必ずしも上手ではない」運用をしたために起こったと思われますが、そのことは責められるべきではないでしょう。ハムバンドでどのように交信をすれば良いか、これまで明確なガイドラインが存在しなかったのですから。
正しい運用を行うことの重要性は軽んじるべきではありません。つきつめると、私達が送信するすべての信号は、ハムであれ、リスナーであれ、あるいはその他、誰にでも傍受できるのです。しかし、それは理由の一つでしかありません。もう一つ心に留めるべき理由は、私達の信号が送信された瞬間、自分の国の代表者として受信をしている人の耳に届いているということです。
ごくわずかな慣例さえ理解すれば、どのバンドにおいても快い送信ができるようになります。これから私がご案内する、良い「運用の方法」への旅にご一緒ください。

1. ハム用語

まずは、ハムに関する正しい用語を身に付けましょう。例えば、「Merit four」ではなく 「Readability four」と表現するのが正しい表現だということを理解してください。また、フォネティックコード、CWの略称、Qコード、ナンバーコード(73/88)等は、日本語に続く第2言語と呼べるほど身に付けた上で使用してください。また、フォネティックコードは、常に正しく使用することが重要です。例えば、"AlfaのA"であり、 "Alaba maのA"と言うのは間違いです。これについては8章(PILEUPS)で詳細にお話しします。

2. 聞くこと

なりたてのハムとしては当然、今すぐにでも交信を開始したいところでしょう。ですが、まずは落ち着いてマイクやキーボード、電信キーから離れ、交信を始める前に、送受信機の「すべての」機能を理解してください。特に送信に関する部分は、初心者が失敗を起こしやすところですから特に注意を払う必要があります。

3. コールサインの正しい使用法

自分のコールサインを正しく使用してください。あなたはこの趣味を楽しむために、厳しい試験に挑み、そして乗り切ってきたはずです。あなたのコールサインはあなただけのものですので、誇りを持ってください。また、コールサインを正しく使用しなければ、合法的)な送信にはなりません。VHF帯において4ZZZというコールサインを聴いたことはありませんか?私が知る限り、これはイスラエルではなく日本の局からの信号です。正しくはJA4ZZZです。コールサインはプリフィックスとサフィックスの組み合わせで構成されています。この間違った使い方はHFにおいても見かけることがあります。例えばあなたの車が盗難に遭ったとしましょう。警察に通報する際に、車両ナンバーの一部だけを告げますか?それとも完全なナンバーを伝えますか?

4. 礼儀正しく

この文書の中でこの章が最も簡潔ですが、まぎれもなく最も重要な章です。いかなる時も、礼儀正しくいてください!あなたの交信は多くの人が受信しているのです。詳細については'Conflict Issues'の章でお話ししますが、礼儀正しくさえ行動すれば、ハムの世界でもそれ以外の世界でも、長い間その世界を楽しむことができるでしょう。

5. VHF/UHF帯でリピータを使用する際のポイント

これ以降の章はHF帯でDXと交信を前提としていますが、その大部分はVHF/UHF帯などにも該当します。

特にVHF/UHFのリピータは、モービル局やポータブル局にも遠距離通信ができるようにと設置されています。固定局のオペレータは、このことを念頭に置いてください。固定局間のようにリピータを介さずに交信することが可能であれば、わざわざリピータを使用する必然性はありません。

また、誰にもリピータを独占する権利はありません。これはリピータに限らず、あらゆるバンドでの運用についても言えることです。リピータ以外の周波数では、「最初に利用を始めた者が使用、また保持できる(first come, first served, and somehow keep)」という原則がありますが、これはリピータでの交信には当てはまりません。優れた機能を持つリピータは、より多くの人に使用されるべきです。特にモービル/ポータブル局であればなおさらです。

リピータを介した交信の場合、'over'の後に短い余白を入れるのは、良い(あるいは、むしろ避けられない)慣習です。この空白があれば、他局が割って入ることができます。'over'の直後にPTT(Push to Talk)を押して、他局が入ってくることができるようにしてください。

6. どのようにQSOをするのか、何を話せばよいか

はじめてバンドを受信してみると、多くの交信がコールサインとシグナルリポートの交換だけに終始しているかを知って驚いてしまうことがあります。もちろん、全ての交信がこのようなものである必要はまったくありません。私自身、交信を始めて間もない頃は長くて実のある交信を好む、筋金入りのラグチュアーでしたので、こういった交信には嫌悪感さえ持ったものです。でも、このような簡潔な交信が悪いわけではありません。私もある時期を境に、比較的短い交信を好むようになりました。すべて個々の好みの問題なのです。

アマチュア無線はやや技術的な趣味ですが、交信で話す内容は技術的な事柄に限定される必要はありません。かといって、アマチュア無線はスーパーのお買い得情報を交換するためのものではありません。このあたりのバランスは何より大事ですが、あなたがご自身の良識で加減してください。

ただし避けなければならない話題を、具体的に挙げることができます。宗教、政治、営利目的の宣伝活動等がそれらに該当します。また、放送(一方通行の音声や音楽の送信)も禁止されています。

ベルギーの初級免許読本には、「オペレーションの慣習と手順」の章があり、交信の方法が記されています。以下は、その引用に一部追記を加えたものです。

ハムというのは経験を積むにつれ、かつては自分も初心者であったことを、ともすれば忘れがちではないか、とある時に気付きました。HFでの'CQ DX'の呼びかけに対し、「DXでない」局が呼びかけるのはよく見かける光景です。また、そのことに対して呼びかけた側が厳しく注意し、呼んだ方が気分を害することになるということも珍しくありません。

この場合、双方に何かしら非があると考えられます。まず呼んだ方(初心者としましょう)ですが、'CQ DX'の呼に対して近距離にいる自分は未だこの時点で応答しない方がよいということを理解するべきでした。また、対するCQを出した局は、とにかく交信をしたいという気持ちから同じような失敗をした頃の自分を思い出して、初心者だとの判断し話し方に配慮をするべきでした。

私自身このような状況に遭遇した場合、この局をログし、実は自分はDXを探している旨を伝えます。ここで殆どの初心者はすぐに私の意図を理解し、それ以降は一段の注意を払うようになります。同時に私との交信をログに記入できた事を大いに喜んでくれることでしょう。まず楽しむことが何より大事です!このように、まず万人にQSOのチャンスを与え、決して初心を忘れないでほしいのです。

7. CQを出す

まず、使用しようとする周波数がだれも使っていないことを確認します。このためには、周波数を聞いてみるだけでなく、実際に呼びかけ、尋ねてみるのです。たとえばSSBにおいては、しばらくモニターした後に、「この周波数は空いていますか?」という質問に続けて自分のコールサインを告げます。しばらく待って応答がなければ、再度同じ質問を呼びかけ、自分のコールサインも告げます。これでも応答がなければ、その周波数上でCQを出してください。

CWやRTTYの場合、'QRL?'と送信します。クエスチョンマークだけで事足りるという考えもあるようですが、意味が不明確となりますから正しいとは言えません。その周波数を既に使用している誰かが、自分のコールサインを尋ねているのだと取り違える可能性があります。この場合、'COP'シナリオが起こる可能性があります(12章参照)
それに対して「QRL?」なら他に解釈のしようがありません。この送信には、周波数の空き状況を確認しているという具体的な意味があるからです。クエスチョンマークだけでは複数の解釈があるため、この状況で使用されたと理解する必然性がないのです。
CWの場合、問いかけた周波数が使用中であれば、次のいずれかの応答があるでしょう。

もし呼びかけた周波数が偶然DXpeditionや、稀なDX局が使用していれば、怒鳴られることもあるかも知れません。この場合でも心配は不要です。反応せず、黙って別の周波数に移ればよいのです。あるいは、しばらくモニターして(問いかけてはいけません)その局がどんな局かを確認して、交信を試みるのもよいでしょう。
日常的な交信であれDXであれ、トラブルの多くはオペレーションの最も基本ルールに沿うことで回避できます。なにはともあれ、まず「聞く」というのが、それです。これとともに魔法の合言葉'QRL?'を併用すれば、CQを出すための空き周波数は難なく見つかるはずです。 習うより慣れることです。もしあなた自身経験が不足しているとお考えでしたら、他人の交信に耳を傾けて参考にしてください。そのうちにあなた独自のQSOスタイルが身につくことでしょう。

8. パイルアップ

DXを楽しむ機会が増えると、パイルアップに遭遇する可能性も高くなります。珍局がバンドに現れると、ただちに交信を希望するアマチュアが群がります。その群れは交信が終わると同時に、互いに覆いかぶさるように珍局を呼び出します。このような状態をパイルアップとよびます。
パイルアップを起こしやすいのは、なにも希なDX局ばかりではありません。DXぺディションはよく、無線文化がほとんど皆無の国や地域、ときには無人に近い島を活性化させることを目的に行われます。これを競技と呼ぶならは、限られた時間内にいかに多くのハムと交信を行うことができるかを競う競技です。当然このような状況では、一人でも多くのハムと交信する機会が持てるよう、交信の一つ一つはなるべく手短に終えることが有利になります。参加中のハムは、あなたのQTHや機材、ペット犬の名前などには興味がありません。
このようなDX局やDXぺディションのログに自分のコールが記入されるのに、もっとも確実な方法はなんでしょう?

それは、聞いて聞いて、聞きまくることです。

それでは、なぜ聞くことが大事なのでしょうか?なぜなら、聞かない方がただただ成功率が低いからです。パイルアップをくぐり抜け、返答を勝ち取るのは、間違いなく最も注意深く聞いているオペレータです。
まず注意深く観察してみると、DX局のクセやリズムが見えてきます。また、目的のDX局がスプリットするかどうかが判ります。この待ち時間は、あなた自身の送受信機器の状態を二重チェックするのにも有効です。

最後の項は、だいたいDXの周波数にて行われがちです。これはいけません!これは通常COPS(12章参照)の目を覚ますことになり、多くの人々の楽しみを奪うことになります。 DXクラスターによるスポットを確認したのち、それがPileupに繋がることはままあります。でも、このスポット情報は必ずしも正確ではありません!DX局の「コールサイン」を正しく聞き取ったことを、まず確認してください。これにより、「NOT IN LOG」「NON EXISTING CALL」または「NOT ACTIVE THAT DAY」のような恐怖のメッセージが刻まれたQSLカードを後日受け取ることも未然に防ぐことができます。
手馴れたDX局ならPileupが進んでいると判断すると、SPLIT運用に切り替えます。こうすれば、使用する周波数がクリーンになり受信する相手にとって聞き取り易い状態になります。逆に不慣れなDX局であればSIMPLEX運用を続け、やがてパイルアップが手に負えなくなりQRTとなります。
このような状況でも、あなたがDX局と交信中であれば重要な役割を果たすことができます。交信相手に、やさしくSPLIT への切り替えを提案してください。もちろん、呼ぶ局数が増え過ぎた場合に限ります。うまくSPLITに切り替えさせることができれば、他のDXer達に感謝されることでしょう。
以下に、想定されるいくつかのPileup状況を記載します。

A. SSB SIMPLEX PILEUP

SIMPLEX pileupが起こった際に通信を成功させるコツはなんでしょう。

これらの手法には、そのときによって異なる不確定な要素もあります。それらを補うのは、ただひたすらSimplex pileupに遭遇し、聞くことによってのみ身につく経験です。大部分はそのDX局の運用リズムと、DX側のオペレータがノイズの中からコールサインを判別する能力に長けているかによります。
前のQSOの終了直後にコールすれば、あなたのコールは同時に呼ぶ数多くの信号に埋もれてしまうでしょう。Pileupにいる人の多くは2回、多くなると3、4回と続けてコールサインを繰り返します。また、DX局はそのうちの一局に応答していたとしても、皆が聞きもせずに呼びかけ続ければ、この応答もまた聞けないことになります。

およそ7秒ほど待った頃には、pileupのほとんどが一息つくことになります。この間を狙って、一度だけコールを行い、そして、応答を待ってください。

DX局側は、正確なフォニックを期待しているだけでなく、特定の子音や、韻の数をヒントに単語を聞き取ろうとしています。これらを拾うことにより、単語の一部が雑音のために損なわれたとしても、自然に補って認識することができます。HF/VHF帯でよく、ユーモアを演出するためかひねった単語が使用されるのを見かけます。しかし、これは効果的ではありません。('Old Nose four Zenith Zebra Zinc Zigzag'という例がそれです)

B. CW SIMPLEX PILEUP

C. RTTYやその他のデジタルモードでのSIMPLEX PILEUP

Digimodeにおいては、自分のコールサインを一度きりしか送信しないのはあまり適切ではなく、2度送信することを推奨します。DX局の状態によっては3度繰り返す必要がある状況も出てきますが、通常はなるべく控えるべきです。
うまくタイミングを見計らって送信しましょう。DX局が早期にSPLITモードに切り替えてくれれば、その必要は全くな くなるのですが。

D. SSB SPLIT PILEUP

さて、DX局がSPLITモードに切り替えました。なんたる幸運でしょう!これでSIMPLEXモードと比べて交信可能な局が明らかに増えるはずです。
SPLITモードに切り替えた局のログに載るコツはなんでしょう。

的確なタイミングでただ一度の送信を行い、pileupをかいくぐり、DX局のログにのる。もはや競技と呼べなくもない、ハムとしての腕の見せ所です。
数分間聴き続ければ、
  1. DX局が運用している「リズム」を把握することができます。
  2. SPLITのための送受周波数の差 (5から10KHz上か下)を知ることができます。この周波数差はDX局側が指定すること が望ましいですが、必ずしも指定してくれるわけではありません。その場合は、あなた自身がワッチすることで知ることができます。
  3. そのDX局との交信が可能かどうか判断できます。(例えば、DX局が日本ばかりと交信していれば、その地域との伝播 状況が特に良好だ、とかです。)
  4. DX局の受信周波数が、SPLITウィンドウの中をどのように移動するか知ることができます。例えば、ウィンドウ内を低い 周波数から順に高い方へと受信周波数を移動するとか、また上端に達した後、今度は一旦低い端に戻るのか、それとも折り返 すように受信周波数を下げて行くとか、です。
  5. DX局がpileup中を、どのぐらいの周波数間隔で移動するかも判ります。例えば、SSB Splitウィンドウ幅が10kHzだとすると、 DX局はその中を2kHz毎に移動するか、それとも3, 5kHz毎に移動するか。それとも大雑把に低い周波数域をしばらくさまよった 後に中域、高域へと移動するのか、等です。
上記のような観察を終えた後、
  1. 自身のコールサインを「1度だけ」呼んで見ましょう。
  2. あとはひたすら「聴く」のです。
これまで述べた手順に従えば、適切なタイミング、適切な周波数でコールすることは至極簡単なはずです。また、この手順を実行するのに(あるいは、実行すれば)1kWなんて出力も必要ありません。
繰り返しますが、DX局がコールサインの一部を復唱していても、明らかに自分に対して応答しているのでなければ、沈黙しましょう。これはいくら強調しても足りないぐらい重要なことなのです。例えそれがsplit運用の最中であっても、自分の番でないときに呼びかけたりすれば他局のQSOを損ねることになりますし、ひいてはDX局の運用しているリズムを壊すことになるのです。このような行為が散見されたとしても、あなたが実行してよいというわけではありません。バンドの上では淑女/紳士でいてください!
逆に考えてみましょう。このような行為を行わなければ…言い換えると「聴く」ことを続けていれば、DX局がどの周波数の局を呼んでいるか見つけることができるのです。
DX局側がpileup中からコールを拾う能力によって多少異なるものの、通常はコールサインを一度だけ言えば良いということに経験から理解して行くことでしょう。2度の呼びかけは絶対的な上限で、3度は許されません。これは重要な事柄ですから何度でも強調します。
DX局は個々の運用スタイルをもっています。あなたの好みに合うスタイルあれば、そうでないものもあるでしょう。中には、 pileupを解消するために、短時間で多数を裁くスタイルで運用する局もあります。あなたへの応答でなければ、沈黙し、そして「聴く」ようにしてください。

E. CW SPLIT PILEUP

F. RTTY (およびその他のDIGIMODE) SPLIT PILEUP

9. テール・エンディング

'Tail ending'... これは20数年前急に流行し、現在に至るまで議論の対象となっています。
ではTail endingとはなんでしょうか? 2台のVFOがトランシーバに組み込まれるようになってから(はじめは複数の機器が用いられ、やがて機能としてトランシーバに組み込まれました)、SPLITモードでの運用がDX局やDXぺディションでの運用テクニックとして一般化しました。pileupに加わる側はサブVFOでQSO中に呼んでいる側の信号を受信し、QSOが成立したと判断すれば、QSOを終えようとしている局の信号に被せて呼び始めるのです。これが「Tail (尾) ending」です。この時、尾を踏む側の出力が十分に大きければ、まだ終了していない交信に上塗りすることになり、DX局が交信終了を告げると同時にしっぽを踏んだ局に応答することができるのです。
一時、このような手法を用いることにより時間が節約され、より多くの局がQSOできると考えられていました。しかし時が経つとともに明らかになったのは、ごく一部のオペレータだけが正しい作法でTail endingを行うということでした。多くのオペレータは、頻繁に見切り送信をおこない、継続中のQSOを妨げ、伝達内容を繰り返すということになったのです。つまり、コールサインの一部がコピーできなかったり、レポートを確認できないことが生じるのです。
最近のようにオペレータの倫理観が低下してしまうと、むしろ継続中のQSOを上塗りするのが正当であると多くの人が考えているのではないかと思えることさえあります。DX局が'QRZ'などで問い返すことなく次の交信を始めるのを耳にすれば、彼らはとんでもない状態になってしまうのです。
それでは、Tail endingが作法として認められるべきかどうか?
今日のコンセンサスでは、答えは「NO」です。

10. DXウィンドウ

ハムが交信に使用できる周波数帯域は、各国際機関により規定されています。しかし多くの場合、各モードがどの帯域で使用されるべきかはこの規定に含まれません。この事態をより整理するために、IARU(国際アマチュア無線連合)による区分 (band planning)が定められるのです。たとえば"IARU Region1 band planning"は、80mバンドにただ二つのセグメント(3500-3510kHzおよび、3775-3800kHz)を設け、大陸間を跨る交信を優先すべきとだけ定めています。また20m帯の一部を(14,195 +/- 5kHz)、DXぺディション用のウィンドウ(帯域)と定めています。これとは別に、規則として定められてはいないものの、事実上の標準としてDXに用いられている周波数帯があり、DXぺディションやDX局が使用しています。
これらのDX用ウィンドウをよく知り、そして尊重してください。
過去に私が中央アフリカからQRP局を運用した際に、レアな場所から参加できることを喜び一つでも多くのQSOができることを楽しみにしていました。また、多くのDXerが何か障害でも生じないかと、この周波数をワッチしてくれていたことも知っていました。
それだけに、これらのウィンドウがヨーロッパや米国のオペレータがあまりにも普通にこの周波数域を使用していることに気付いたときは大きく落胆してしまいました。
多くの人が、これらのウィンドウを「普通」の局が'CQ DX'を出すために存在していると考えているようです。そうではなく、これらウィンドウがローパワーながら認識されたいと考えている局のためにあると私は考えます。一般的な局はCQ呼び出しのためではなく、希少なDXを探すときにのみこれらウィンドウを使用するべきです。
以下に記す「デファクト」のDXウィンドウは現行のものであり、十分に監視する価値があります。

もちろん、DX局やDXぺディションがこれらのウィンドウで定められた以外の周波数に出現する可能性も十分にあります。

11. 競合

ここで一つ重要なことを考えて見ましょう。アマチュア無線の周波数帯は趣味を同じとする多くの人々が共有しているものですから、常に競合は起こりえることです。これについて論じないのは反って非現実的ですから、多少のアドバイスも何かしらの役に立つことでしょう。
第4章でもお話ししましたように、常に礼儀を心がけましょう。これが(ある意味、長期的なものを含む)競合を解消する唯一つの手段ではないでしょうか。
まずは、極端な例からみてみましょう。ここでの登場人物は、シシリー在住のIZ9xxxxです。このPipoと称するOMには、 DXのメインストリートでもある14,195kHzでヨーロッパやアメリカのに対してCQを出す(悪い?)癖がありました。彼がこの周波数に出現する度にバンドに問題が生じ、この周波数域を独占するかのような態度に世界中のDXerが辟易している有様でした。
しかし、この状況も見方によっては、逆に以下のような見方ができなくもないのです。

この状況に私が気付いたのが2003年の半ばで、後にPipoが多数のDXerにより妨害されるのを自ら目撃することがありました。妨害した多数の局が、法令で認可された帯域以外での送信を行っていたことは、まず間違いありません。もし、その地域の電波行政管理機関の人が何かしらの移動設備で彼らの家の前に行き、この活動を察知していれば、確実にライセンスを剥奪されかねない状況です。このように、ここで不正を働いていたのは、自分なりに法令を遵守していたPipoではないのです!
見ようによっては、Pipoは意図的に他人の楽しみを奪う反社会的な人間であったとも言えます。しかし、彼の行動はすべて法律で認められた範囲にとどまっていました。
このような人間に接する、よい方法はなんでしょうか? 2003年8月12日のこと、再びPipoに私の忍耐力を試される出来事がありました。この日、私はごく普通の態度で14,195kHzでのQSOをし、それは20分間ほどに及びました。このQSOで、私はPipoが身元不明の多数のハムに妨害されることを快く思っていないことを知りました。それどころか、生命を脅かす内容の電話が自宅にまで掛ってきている(しかもそれを取ったのが彼の娘という)ような状況に彼も肝を潰していたそうです。この「穏やかな」交信の中で、Pipoが14.195kHzに留まるべき理由、また留まってはいけない理由について議論しました。結局、具体的な結論に達しないままこの交信は終了することになりましたが、その後の数週間、14,195kHzにはIZ9xxxxによる送信はありませんでした。
もちろん一ヶ月ほどの後、Pipoは14,195kHzに舞い戻っていました。彼が別の帯域でまた同じような目にあったからでしょうか?

また、2005年のこと、K7Cのエクスペディションが盛んだったとき、Pipoが14,195kHzにて「この周波数は使用中ですか?」と尋ねるのをたまたま耳にしました。私は即座に応答しました。「Yes Pipo, by K7C, tnx QSY, 73 from ON4WW」、と。彼は即座に5kHz下がり、 CQを出しました。これでこの件については終わります。
まだ私がハムとしての経験が浅かった頃のこと、21,300kHzにて大変悪質な出来事に遭遇しました。非常に悪名高いON6が、大規模な DXぺディションの最中に域内交信を行っていたのです。私はこの交信に割って入り、可能であればQSYを願いたい旨を礼儀正しく伝え、自らのコールサインで括りました。
その時私が受けた罵倒する表現は、とてもここに記載できるものではありませんでした。それ以後、このON6局と彼に親しいON4がVHF リピータ上で頻繁に妨害に遭っていることを知りました。おそらく彼らの礼儀を欠いた態度が妨害の元となっていたのか、あるいは度重なる彼らへの妨害が、このような精神性を培ったのかも知れません。(今回もそうですが、妨害は法令を違反して行ったものとして扱われます)
もう一つベルギーでの出来事でベテランと二人の初心者の間に見られた例を紹介します。二人のON3局(いずれも初心者)がVHFリピータ上でQSOをしていました。一方が、リピータの入力周波数で他方をよく聞き取れている旨を話し合っていました。ここにON4が現れ、自分が交信を行いたいことを理由に、リピータを去るよう二人に告げました。これはいただけない態度です。先ほども述べたように、常に礼儀正しくあるべきです。ON4が交信に割って入ったまでは良かったのです。ON3の局もリピータの存在目的を理解しているべきでした。リピータは主にモバイル・ユーザの交信範囲を広げるためにあります。もしON3局が高速道路を時速120kmですれ違うという状態でレピータを使用無しのQSOをしていたなら、QSO交信はすぐにでも終了していたはずです。それにしても、初心者はベテランに怒鳴られることを恥じるものですから、私たちは、逆に初心者を成長してよう働きかけ、接するべきではないのでしょうか?
ここまでに紹介した例は、実際にあったかどうか、そもそも問題ではないでしょう。 まず大前提は「礼儀正しくあること」。あなたが必ずしも相反する考えを持つ人に出会うとは限りません。でも、考えの異なる人に出会う確立の方がはるかに高いのです。
このトピックは、関連する次の章に続きます…

12. 'COPS' (警察)

ハムの社会は、自浄作用により治安や秩序が維持できるものと考えられています。違法なことが行われない限り、なにかしらの権力が介入することはありません。また、ハムのが警察に相当する機関を必要としているという意味ではありません。しかし、自警に参加できるように自己鍛錬が必要です。
話を、シシリー在住のPipoに戻しましょう。「この周波数は空いていますか?」との彼の呼びかけに、私の応答があと2秒遅ければ、自らをDXの警官と位置づける誰かがPipoに罵声を浴びせたでしょう。これらの罵声が「悪い状況」を「さらに悪い状況」に進化させることは、もはや自然の摂理と言っても過言ではありません。
ここで紹介しているPipoのような考え方の人間は、このような状況におかれると14,195kHzを去るどころか、ますます留まりたくなるものです。そうすると彼はおそらく向こう2時間は妨害に遭い続けることになるでしょうし、ひいてはK7Cエクスペディション自体が取りやめになることに繋がるかも知れません。貴重な時間と多くのQSOが、自警団員を自負するおせっかいな人達のために失われるのです。

ここまでにCopsを大きく3つのカテゴリに分けて紹介しましたが、彼らには一つの共通点があります。彼らは警官の役割を演じていますが、それと同時に、自らのコールを告げることなく送信をして海賊ともなっているわけです。
Copsに遭遇するのは、どのような状況でしょうか? 品格のあるCopsなら、ここで周波数を上下のいずれかに移動させることを勧めて、事態を収拾することができます。このCopsの意図は、あくまで制裁を加えることではなくDXerを支援・補佐することにあります。
似た状況でCopsが取り得る行動パターンには、中立性や礼儀を欠いた無数のバリエーションがありますが、ここでは取り上げません。上記の例以上に参考とすべきものはないのですから。
では、中立的な立場で呼びかけるには、どのような方法があるでしょうか?
Copとして行動を起す前に、まず以下を検討してみて下さい。 それでもあなたがCopとして行動を起さねばならないと判断した場合は、 それ以上のことを伝えても、相手は理解しないかも知れません。それ以上長続けても、事態を悪化させる可能性が増大するだけです。

CWの例:
ON4WWが誤ってDX局の周波数で送信しているのを見かけたとします。次のように送信してください: 'WW UP'。もし「UP(あるいはDWN)」とのみ送信しても、おそらくON4WWは自分に対して送信されているのだとは気付かないでしょうから、彼は過ちを正すことなくDX局の周波数での発信を繰り返します。続いて何が起こるかというと、これに誘発された他のCop達もひたすら「Up」「Up」と発信する状況になり、混沌を招くことになります。
このように、必ず相手のコールサインの一部を含んだ上で、「UP」または「DWN」と続けてください。こうすることにより、相手は他でもなく自分に対する呼びかけであることに気付くでしょう。ここで仮に相手のコールサインのすべてを送信に含めると、DX局の通信の一部を遮る可能性が高くなります。
もちろん、誰一人としてCopにならなければと感じない状況が理想ですが、残念ながらここは理想郷ではありません。効果的な呼びかけは、直ちに事態を改善します。それに対し、罵声を含む呼びかけは直ちにその逆の状況を作り、パイルアップとDX局の楽しみを奪ってしまいます。
一人の善良なCopが現れるのは幸運です。ただし善良なCopも、二人現れると間違いなく多過ぎます。
SSBとRTTYモードにも、同じ概念が適用されます。相手のコールサインの一部(あるいは、これらのモードにおいては完全なコールサインでも結構です)に続けて、適切な指示を与えてください(listening UP/DOWN)。直ちに DX局の周波数はクリアになることでしょう。
DX-erになれば、Copに対して全く何もしないのが最善であることに容易に気付くでしょう。ネガティブなものを、ポジティブに変えるよう努めましょう。そして「聴く」ことを続けるのです。(またもやこのキーワードが出てきましたね)そうすればDX局をあなたのログに加えることができますし、Copsも上機嫌でいられることでしょう。
最後に一つ。厳密には自らが名乗りをあげない限り、Copsによるあらゆる送信は違法なのです。

13. 二文字コールサイン(部分的コールサイン)とDXネット

第3章で述べましたように、いかなる状況でも、いかなるモードでの運用においてもコールサインを完全に告げなければなりません。
DXネットの多く(ほとんどが15、20、40m帯)ではMOC(Master Of Ceremony)がそのDXネットに参加しているDX局と運用したい局のコールをリストアップします。
このリストを作成する際、MOCがコールサインの最後の二文字だけを要求しているのをよく見掛けます。これは誤っているばかりでなく、違法です。まったく残念なことに、ネット外のDX局と交信する際にこの悪しき慣例を持ち出している人も少なくないようです。これは、DX局やDXぺディションの運用リズムを乱してしまいます。また私が「向こう側」で活発だった頃、ある局がコールサインの末尾2文字を、3度繰り返すのをよく目の当たりにしました。はじめから完全なコールサインを一度告げていれば、5秒ほどで済んだ作業です。不毛な手順により、QSOが3、4倍の時間を要するという結果になりました。

この現象はCWではさほど見当たりません。また、RTTYにおいてはほとんど皆無と言っていいほどです。これまでに遭遇した、悪い見本の最たるについてお話しします。以前、CWでコールを受けました。'XYK XYK' この呼びかけがあまりにも強力な信号だったので、他の局のことを思うと見過ごすわけにもいかず、私がログに拾うことにしました。 'XYK 599'と応答しました。(続くコールサインは架空のものですが、おおよその状況はおわかりいただけるかと思います) 次に、このような応答がありました 'Z88ZXY Z88ZXY 599 K' このOMはご丁寧にも、自分のコールサインの末尾2文字に連続して'K'を送信していたのです(KはKeyの略称で、モールス交信への導入を表します)これが、先方がKで終わるコールサインの末尾3文字を送信しているとの誤解を招いていたのです。これこそ、時間と周波数の浪費以外のなんでもないと思います。
DXネットについて、最後にもう一つ。添付した風刺画がすべてを物語っています。QSOは、いわばスプーンで与えられる食事のようなものです。MOCはしばしば2-way QSOを行うのに単に手を貸す以上のことまで行ってしまいます。人の世話にならないでQSOを行うようにしましょう。その方が楽しく実りある結果に繋がります。

14. QRZ, クエスチョンマークの使い方

DX局やDXぺディションの中には、適当な頻度で自局コールを言わないという悪い癖がある人がいます。これは災いの元です。
バンドをワッチしている(かつDXクラスタには参加していない)人は、DX局の信号を見つけてもコールサインの判明ができません。だから、しばらくしたら'QRZ'、'?'、あるいはCWですと'CALL?'、SSBならば'What's your/his call?'、等と質問の送信を始めます。これほど煩わしいものはありません。DX局がSPLITで運用してしる場合、彼はこれを聞いていません。pileupの局は異なる周波数で送信していますから、'QRZ'、'?'、あるいは'CALL?'の送信は、DXを聴いている局に単に妨害を与えてしまいます。その結果、戦慄すべきCopsが立ち上がり、やがて混乱が訪れます。
このような状況を未然に防ぐには、DXにおける一番大事なルールに従うしかありません。それは「聴く」ことです。決して、'QRZ'、 '?'、'What's your/his call?'と問いかけてはいけません。これは局のコールサインを知る上で有効な手段ではありません。ましてや、この状況において'QRZ'は誤用になります。'QRZ'は、「誰が私を呼んでいるのですか?」を意味するのですから。

15. コンテストの参加局を呼び出すには

コンテストに参加したり、コンテスト参加局をコールする前に、そのコンテストの規定を熟読してください。一部のコンテストでは、交信できる相手に制限があることがあります。そのコンテスト・ルールから、あなたとの交信では点にならない相手を呼ぶのは、なんとも恥ずかしいものです。このような状況において、ログ用ソフトによってはあなたのコールサインを入力することができないことさえあります。以下に簡単ながらアドバイスを。

16. DXクラスター

これは常々、議論の的となるテーマです。多くの人が重宝して利用していますが、同時に嫌悪する人も多いのです。
あまりに多くの誤った'DX Spots'が投稿されていることに、時折衝撃さえ覚えます。DX局を見つけたら、ENTERキーを叩く前に、全てのデータに目を通し、ミスタイプがないか再確認しましょう。
また、DXクラスタにはANNOUNCE機能があります。多くのオペレータが愚痴る、唸る、QSL情報を求めるといったかたちで、この機能が乱用されています。愚痴る?唸る?
なんのことかって?以下は、3Y0Xエクスペディションの際に見かけられたAnnouncementです。(また、他の折に見かけたものも含みます)

「3時間も呼んでいるのに、まだ一回のQSOもないよ」
「かれこれ5時間も聞いているのに、誰も覗きもしやしない。しょぼいエクスペディションだこと!」
「下手なオペレータばかりだ、彼らは電波伝播のなんたるかをまるで理解していない」
「なぜSPLITしない?」
「頼むからRTTYしてくれ」
「ビンゴーーーーッ!」
「よし、new one!!」
「これで276達成!」
「ヨーロッパ、頼むからヨーロッパを」
その他、云々…

これは、まったく何の意味も価値もありません。DXクラスタは、DXを見つけるための道具です。それ以上でも、それ以下でもありません。Commentary fieldは、使用しているSPLIT周波数を伝えたり、QSL情報に使用できます。
DXクラスターは、DXをスポットして、多くのDX-erに有用だと思える情報を付加したものです。
QSL情報が必要ですか? それならばコマンド 'SH/QSL callsign'を送信して下さい。
もしあなたが見ているDXクラスタにQSLデータベースがなければ、'SH/DX 25 callsign'がコマンドです。最新の25件が表示され、大概コメント欄の一つはQSL VIAに始まり必要な情報を併記しているはずです。それよりさらに効率的なのは'SH/DX callsign QSL info'です。これは、コールサインに該当する最新の10件をコメント欄付きで表示します。もしDXクラスタからQSL情報を取得できない場合、インターネット上のQSLウェブサイトで相談するのが望ましい対処法です。
あなたの怒りを、他人にぶちまけてはいけません。どうせ時間を割くなら、あなた自身の局や技能を向上させるのに役立つことに時間を割きましょう。
Spotのコメント欄への'Worked 1st call'、'Worked with 5W'というような表記は、DX局に関する情報を提供しておらず、DXer本人のエゴの表れでしかありません。
Spotの多くに見られるのが、spotしている局自身の情報や個人的なメッセージ等です。このような間違った使い方はするべきではありません!
海賊局のspot?海賊は私たちが関わる相手ではありません。無視をしましょう。
我々の親愛なるPipoを覚えていますか?彼のような局を発見した場合はどうするべきでしょう。そうです、無視するのが正解です。
最後に要約です。DX Spotは正しく行いましょう。あなたの愚痴で他のハムの気分を害するようなことは避けましょう。誰もあなたのエゴには興味はありませんが、あなたが提供したSPLIT周波数やQSL Managerに関する情報は、皆に歓迎されることでしょう。DXクラスタの機能を正しく使用してください。もし使い方が解らなければ、調べるまでのことです。マニュアルを参照するには、DXクラスタにて'SH/HELP'と入力するだけですから、熟読してみてください。
注意: あなたのSpotは、DXクラスタのコミュニティ全体が目にします。ここでは悪評がつくまでに、さほど時間を要しません。同様に短い期間で良い印象を広めることも可能です。
ご参考までに、以下のサイトをお勧めします。このサイトのメッセージはとても明確です。 Cluster Monkey link

17. DX局とDXpeditionへのアドバイス

休暇の家族旅行を兼ねて?それとも、海外出張のついでですか? そのいずれでもない理由でDX局を運用しようとするつもりなら、DX-peditionに大金を出費する変な物好きに違いありません。少なくとも奥さんには。
出かける先が希少であるほど、これまでに述べてきたような事態に直面する可能性が増大するのです。Cops、話を聞かない人、その他諸々…。 いろいろな人が群がる中、その状況を制するのは、他でもないあなたなのです。

pileupを制御するにはどうすればよいか?簡単ではありませんが、不可能なことではありません。そのコツをいくつかご紹介しましょう。

もしpileupが手に負えなくなってきたら、地域や、コールサインの数字の限定するのも一つの方法です。地域を限定するということは、交信する大陸(例:ヨーロッパ)や地域(例:北ヨーロッパ、米国西海岸)を絞り込み、それ以外の局にはスタンバイしてもらうことを意味します。コールサインの数字による限定は、相手のコールサインが含む数字(0〜9)を特定することです。
このようなオペレーションは通常ならば推奨しません。膨大な数の局が、自分の該当する条件が巡ってくるまで、ただじっと辛抱しなければなりません。しかも、待ったからといって、必ずしも彼らの該当する条件をあなたが提示するとは限らず、いつQRTしてもおかしくありません。この状況はもちろん呼ぶ側の人を不安にさせます。そして、その「不安」こそが、彼らををたちどころに態度の悪い'Cops'に化けさせる危険性の原因なのです。仮にコールを限定して交信相手を絞りこめば、呼んでいる人の90%以上が待機させられていることになるのです。
しかし、この方法で大きなpileupに対処すれば、まだまだ経験が浅いオペレータにパイルアップの中での運用方法を学ぶ機会を与えることになります。また、地域を絞り込むことの最大のメリットは、通常なら電波状況等から交信が困難な相手に、あなたと交信する機会を与えることにもなります。
以下に、地域限定を行う際の注意事項を記します。

次に、コールサイン中の数字で交信相手を絞り込む際のポイントです。

交信相手を限定する基準として、大陸・地域・数字を紹介してきました。これ以外に相手国を限定しよとするオペレータがいますが、これはいかなる場合も避けるべきです。もう一度警告します、これは絶対に避けてください。国を絞り込むことは、それ以外の国のCopsの逆鱗に触れるものです。どう頑張っても、335のentitiesと交信することは不可能です。なぜこのような馬鹿げた手法を使う必要がありましょうか?
最後に一言:pileupの渦中にあるときに最も大事なポイントの一つは、運用中のペースを始終キープすることです。これができるようになれば、あなたもリラックスして望めますし、pileupへの参加者も安心します。しかし最も大事なことは…楽しむことです!

18. その他

CWのキークリックは、他のハムにとって非常に煩わしいものです。もしあなたのリグがクリックを発するなら処置をしてください。SSBにも同じことが言えます。過変調の電波は好ましく思われません。あなたの送信する電波がクリーンであることを確認してください。
Qコード、数コード(73/88)は、CWにおいて定型的な言葉や質問を省略するために用いられます。しかもこれらは音声QSOにはありません!音声なら「さようなら(Best regards)」と喋ればいいものを、わざわざ'73'と言う必要もありませんよね?この点においては、妥当なバランスを維持するよう心がけて下さい。音声の交信においてQコード、ナンバーコードは可能な限り控えるべきです。
音声で'73'と話すのは正しくありませんし、少々やりすぎに聞こえます。逆に、CWで"73's"と発信したりするようなこともないでしょう?
もしDX局のCW速度があなたにとって速過ぎるのに、どうしてもその相手と交信したければ、通信をスムーズに進めるための機器、例えばソフトウェアによるデコーダ等を用意してはいかがでしょう?さもなければQSOを完了するのに過大な時間を要し、相手にも迷惑がかかります。また、先方の送信内容が読み取れないがために、冷静に振舞うことすら困難になることでしょう。DX局との交信を待っている人たちが、他にも大勢いることを忘れないでください。
苦もなく、またソフトウェアを使用することもなくCWを聞き取れるようになるには、ただひたすら練習を重ねることにより腕を磨くしかありません。

"Not in the log." も.しQSLカードが度々このメッセージとともに返送されるようなら、あなたの運用方法を改める必要があるのかもしれません。「聴く」ことが、まず第一の要件です。相手の言うことが理解できないのなら、はじめから交信する意味はないわけです。このドキュメントを何度も熟読してください。そして実践することにより、オペレータとしての実績をつけましょう。そうすれば"Not in the log"のメッセージを目にすることがなくなると、自信を持って断言することができます。
QSLといえば、次のような格言があります。「QSOにおける礼儀は、QSLカードによって完了する」。もちろん、多くの人があなたのQSLカードをコレクションに加えたいと考えるでしょう。しかし、皆がそういうわけではありません。かくいう私自身は、ビューロ経由、ダイレクトを問わず、QSLカードを送付してくださった方には返信しないことはプライドが許しません。これは、ハムとSWL(Short Wave Listeners)の両方に等しく言えることです。幸いなことに私の居るベルギーでは、国内の無線を統括しているUBAという機関への年会費に、ビューロの利用料金が含まれています。非常に安価にて、世界各地へQSLカードを配送できるわけです。しかし、すべてのハムが同じようなしステムに恵まれているわけではありません。国により、ビューロの仕組みは異なり、中には決してコストの安くないところもあります。 QSLを発送するときは、このことを思い出してください。また、IARUのウェブサイト等を通して、QSLを発送する相手の国におけるビューロ・システムを知る努力をしましょう。あるいは、返送用の送料を同封した上、相手に直接カードを送付することを検討してみてください。この際にはIRC - International Reply Coupon (訳注:国際返信切手券として日本の郵便局でも購入可能)が使用できます。

また、別に電子的に交信の確認をする方法があります。たとえば、ARRLが提供するLoTW (Logbook of The World)
などがあります。この場合、紙媒体のQSLは必要なくなります。私自身は、旧式の媒体も歓迎しますよ。収納に使用している靴の空箱も、随分な数になりました!
DX局の中には、QSL交換よりも運用に専念できるようQSLマネージャを使用している場合もあります。多くのWebサイトで QSLマネージャの情報を得ることができますが、ここでは、よく交信中によく耳にするQRZ.comを紹介しておきます。
第二次世界大戦中、全ての無線局免許と通信機器が没収されたことをご存知ですか? そして終戦後、再びハムに許可を与えるよう政府に働きかけたのは、誰だったか覚えていますか?そう、他でもなくNational Radio Societies (IARUのメンバー達)です。こういったNPOこそが、あなたが免許証を所持できるよう、国家権力と交渉しあう力を持っているのです。こういった機関が発言力を持つのは極めて大事なことで、それを実現する方法はただ一つ、あなたにもメンバーの一員になっていただくことのみです。団結すれば、私たちは強大になれます。l'Union fait la Force(訳注:ベルギーの「国標語」)あなたはまだメンバーになっていませんか? ならば、一度参加を検討してみてください。もしあなたの国にまだ安価なビューロ・システムがないのであれば、立ち上がって社会に問いかける時なのかも知れません。なぜベルギーにできることが、我々の国にできないのか、と。ついでに、あなたが属する無線社会に、ボランティアとして貢献してはいかがでしょうか。もし政府にまで声を届けようと思えば、こういった機関こそが発言を通す唯一の窓口であることを肝に銘じてください。
DXに関する各種リソースは、インターネットでも見つけることができます。挙げ始めるとキリがありませんので、ご自身で検索システム等を活用して見つけてください。名前をいくつか挙げるとすれば、425 DX News Letter, ARRL Propagation Bulletins, Ohio Penn DX Bulletin, その他諸々があります。
IARUが定める帯域の割り当てと、あなたの属する機関が定める地域毎の帯域割り当てに慣れ親しみましょう。一覧表を印刷して壁に貼ってください。
以前に登場したIZ9xxxxとPipoは言う間でもなく、シシリア在住のあるハムの仮名・仮コールサインです。
さて、ここまでお読みいただいた方はお疲れさまでした。気分転換に爆笑できるサイトをご紹介しましょう。DL4TTによる sharp observations というサイトです。第19章を読み終えたあとは、ぜひこちらをご覧ください。

19. 結論

その少年も、昔はsmall pistol(設備規模の小さい)ハムでした。はじめのうちは彼も、大きなDX-peditionでただ一回でも QSOできれば満足していたものです。まず出力の小さい(というより、むしろそうしないと周囲が口うるさいのでやむなく)局で、300余りのエンテティを達成しました。そこには純粋に、一つでも多くの国と交信したいという想いだけがありました。
学習にも余念がなく、紙媒体のDX関連雑誌には全て目を通したりもしました。また、時には144MHz帯のDXチャンネルを聞き、彼らが最新鋭のアンテナでどのような交信を行っているのか聞くなど、寝る間も惜しんで情報収集に励んだものです。時にはただ一つのQSOを実現するために、何時間もコールしたこともありました。そして、努力の甲斐もむなしく結果に到らなかった日もあります。さらに輪をかけたような時間をかけて、pileupから抜けた出した日もあれば、努力が実らず翌日に持ち越されることあったでしょう。休日があれば、一つでも多くの新しい交信を行うために打ち込みました。
さて、この少年は現在もsmall pistolハムです。この国の東側からハムが訪れると、必ず驚きの声を上げます。「えっ、まさか本当にこれだけの設備で、あのDXをこなしていたの!?」、と。
まさしく、DXを成功させたいという志ひとつが、効率的で競争に打ち勝てる局を作ろうという想いを強くするのです。成功するために、膨大な設備は不要です。これに加えて、正しくオペレートできる技術があれば、他に何も必要ありません。
私はときどき、DXクラスタ上でぼやいている人たちのところへ直接出向いて、ぼやくのに時間を割くよりも、困難なDXとQSOする方法を教えてやりたくなる衝動に駆られます。そして、言ってやりたいのです。「ばかな真似をやめて、DXに専念しろ!」
また、ある偉人が言ったように「DX こそすべて!」であると。

そして、新たなる交信ができるよう、幸運を願っています。その過程で、これまでに紹介したポイントが、技術向上に何かしら貢献すれば幸いです。
もしpileupをブレイクすることができなければ、いつでも私を頼ってください。あなたが新しいエンテティとの交信ができるたびに、ビールをご馳走いただければ他には何も求めませんから。
それと、忘れないでください。失敗をしない人などいません。かくいう私が失敗をしでかす瞬間を目撃することがあれば、そのときはニッコリ笑って、反面教師としてください。
なにはともあれ、幸あらんことを!このプロジェクトを遂げるために協力してくれた、友人の数々に感謝します。
このドキュメントの和訳は、David Shimamoto と Mac Shamamoto JA3USAの両氏によって行われました。ありががとう!
私の あるいは、 宛にメールにてご連絡いただければ幸いです。
ありがとうございました!

73 - Mark - ON4WW.
(January 2008)
追伸:この文章を最後まで読んでくださった方から、ご意見、ご感想が聞ければ有り難いです。何かしら役に立ちましたでしょうか、また何か抜け落ちている項目はありませんか?お声を聞かせてください。
ありがとうございました!